『私の解放日誌』は日々に疲れ切って、何も楽しいことがなく、この人生がこのままずっと続いていく気がしてしまう人のためのドラマです。
韓国では変わり映えのない日常に疲弊し、人間関係に「無彩色」の感情を抱いている30代〜50代から圧倒的な支持を得て、単なる恋愛ものではなく「自分自身の物語」として受け入れられ、視聴者の心に深く潜り込み、人生を変えるような「人生ドラマ(インセンドラマ)」として韓国で社会現象を巻き起こしました。
このドラマは毎日を懸命に生きる私たち日本人女性にも刺さる人生ドラマになると思います。
「私の解放日誌」作品の基本情報
- 配信・放送: 2022年(韓国JTBC / Netflixで独占配信中)
- 脚本: パク・ヘヨン(『マイ・ディア・ミスター 〜私のおじさん〜』)
- 演出: キム・ソギュン(『まぶしくて ―私たちの輝く時間―』)
- エピソード数: 全16話
あらすじ:満たされない日常、そこからの「脱出」
ソウルに隣接する郊外の町「山浦(サンポ)」から、片道1時間半以上かけて都心へ通勤する三兄妹。長女ギジョンは「愛に飢え」、長男チャンヒは「どこにも行けない自分に苛立ち」、末娘ミジョンは「透明人間のように」息を潜めて生きています。
そんな彼らの実家の庭先に、酒に溺れ、正体不明のまま居座る男「ク氏」が現れます。何もない田舎町を舞台に、彼らがそれぞれの閉塞感から自らを解き放っていく過程が、美しく、時に痛々しく描かれます。
主要キャスト:静かなる演技の競演
ヨム・ミジョン役(キム・ジウォン)
感情を内に秘めた末娘。職場の人間関係や冷めた日常に限界を感じ、ク氏に「私を崇めて(追仰して)」と告げることで、物語の歯車を動かします。
ク氏役(ソン・ソック)
言葉少なに酒を飲む、過去を捨てた男。ミジョンとの奇妙な交流を通じて、次第に人間らしい表情を取り戻していく姿が、大人の女性たちの心を掴みました。
そしてこの作品でソン・ソックは世間に広く知られる様になり、放送当時は韓国で「ク氏(ソン・ソック)」に熱狂する女性が続出し、「ク氏病」という言葉まで生まれたほどです。
ヨム・ギジョン役(イ・エル)
「誰でもいいから愛したい」と切実に願う長女。40代を目前にした女性の焦燥感と情熱を、リアルに演じています。
ヨム・チャンヒ役(イ・ミンギ)
野心を持ちながらも、現実の壁にぶつかり続ける長男。彼の吐露する本音は、多くの現代人の共感を呼びました。
この二人の兄と姉、とても魅力的な俳優さんなのですが、このドラマの中では、友達や家族にいそうな等身大の私たち同世代の姿を完璧に演じていて、すごく身近に感じられます。
幸せじゃない日常の、あまりにもリアルな描写
主人公のミジョン(キム・ジウォン)は、地方で両親と姉、兄暮らしています。兄弟のことが特別に好きなわけでもなく、家族団らんが幸せというタイプでもない。
会社では嫌な同僚や上司との小さな衝突があり、過去の恋人の借金をなぜか今も返済している。
あまり笑わず、感情も多くは語りません。正直なところ、「いつ人生が終わってもいい」と思ってしまうほど、彼女は日常に疲れ切っています。
何ひとつうまくいっていない毎日。でも、それはミジョンだけではありません。兄も、姉も、それぞれが報われない日常を生きています。
このドラマがすごいのは、その「幸せじゃなさ」を、大げさにせず、淡々と、リアルに描いているところです。
脚本家パク・ヘヨンの魔法
この絶妙な心理描写を生み出しているのが、脚本家のパク・ヘヨンです。
前作の マイ・ディア・ミスター と同様に、社会の底辺や片隅で生きる人々を決して見下さず、温かさと鋭い洞察力をもって描いています。
派手な展開も、分かりやすい感動もありません。
それなのに、心の奥を正確に突いてくる。まさに「魔法」のような脚本だと思います。
また、実際にこのドラマの舞台となっている京畿道に住んでソウルまで地下鉄を使って通っているというパク・ヘヨンさん。主人公が地下鉄を使って通勤する間に見える車窓からの景色は、時間がゆっくり流れていて、まるで自分も通勤しているような気分になります。
パク・ヘヨンさんもこの車窓からの景色を眺めて、自分の人生を考えたり、ドラマの構成を考えたりしていたのかもしれません。
こうした景色や、夕暮れの田舎道。
余白が多く、静かで派手な演出のない映像美は観る人に考える時間を与えてくれます。
ドラマを観ているはずなのに、いつの間にか自分の人生を重ね合わせている時間になります。
『私の解放日誌』の名言・印象的なセリフ
「愛じゃ足りない。私を崇めて(追仰して)」
“사랑으론 안 돼. 날 추앙해요.”
最も話題になったセリフです。「愛(サラン)」という身近な言葉ではなく、相手を絶対的に肯定し、力を与えるという意味の「追仰(チュアン)」という言葉をヒロインが使ったことで、視聴者に新鮮な衝撃を与えました。
「1日に5分。5分だけ息がつける時間があれば、生きていける」
“하루에 5분. 5분만 숨통 트여도 살만하잖아.”
人生を劇的に変えるのは難しくても、コンビニのドアを開けてくれる人がいた、信号がちょうど青だった……。そんな「たった7秒の幸せ」をかき集めて5分にする。その5分があれば、明日も生きていけるという謙虚で切実な幸福論は、多くの大人たちの涙を誘いました。
「どこかに閉じ込められている気がする。どうにかして抜け出したい」
“어디 갇힌 것 같아요. 뚫고 나가고 싶어요.”
職場の人間関係や、終わらない家事、介護。誰かが決めた「普通」という枠の中で息苦しさを感じている現代人の心を代弁した言葉として、多くの共感を呼びました。
仕事で疲れていて、特別な楽しみもなく、でも周りを見ればみんなはなぜか幸せそうに見える。
田舎の家族は、嫌いなわけではないけれど、心から好きとも言えない。
誰にも本音を話せず、「誰かがこの日常から救い出してくれたら」と心の奥底で願っている。
このドラマは、まるで私の心の中を代弁するように描いてくれました。
『わたしの解放日誌』は人生を劇的に変えてくれる物語ではありません。
でも、「この日常がつらい」と感じている人の心にそっと手を伸ばしてくれるドラマです。
何も起きない日々に疲れている人、自分の人生に名前のつかない息苦しさを感じている人にぜひ観てほしい一作です。
